artim

青山有紀 meets artim
「おばんざいサロン」

2016年12月17日(土)

さまざまなフィールドで活躍するゲストをお迎えして開催されている『サロン青山』でのイベント。今回は料理家の青山有紀氏によるトークショー&ワークショップのレポートをお届けします。生まれ故郷である京都のおばんざいと、幼い頃から食べて育った韓国家庭料理の魅力を伝えたいと、2005年におばんざい屋「青家」をオープンした青山氏。豊富な薬膳の知識と季節の食材を活かして作られる家庭料理は、忙しい毎日を送る私たちの心と身体をやさしくいたわってくれます。ワークショップでは実際に「かぶのそぼろあんかけ」を作りながら、どんな料理にも使えるコツを伝授。試食したお客さまの顔にも自然と笑みがこぼれるような美味しさでした。

中国の伝統医学を学び、国際中医薬膳師の資格を持つ青山氏は、薬膳の考えをもとにして京都のおばんざいを作っています。薬膳というと私たちは、漢方の食材を使った料理などをイメージしがちですが……。

「本来の薬膳とは、中国の医学の理念にもとづく料理のことをいいます。どれだけ漢方の食材が使われていても、作り手に医学の知識がなければ薬膳とはいわないんですね。それに薬膳はもともと、仏教などと同じく古来の日本に入ってきて、とくに京都の食文化には深く根付いているものです。<医食同源>という言葉を皆さんもお聞きになったことがあるかと思いますが、食べ物すべてに効能があって、食べることで健康を保つというのが薬膳の基本的な考え方です。自然と人間のつながりを大切にし、<五季>と呼ばれる季節ごとの特徴を踏まえながら、それぞれの季節に合った食材を食べることで身体を養生する。それは、京都のおばんざいにも通じる思想なんですね。ですから薬膳というのは決して特別なものではなく、日常的なごはんで十分に作ることができるんですよ」

火を止めてからしばらく置くことがコツ
その間に食材同士がなじんで旨味が何倍にも

キッチンに並べられた京野菜の数々は、青山氏が京都の伝統野菜農家から取り寄せているもの。色鮮やかな赤かぶや京にんじん、まるまると太った聖護院かぶらなど、見た目にも美しい野菜ばかりです。

「京都では、捨てることを<ほかす>といいますが、京都の人は食材をほかさずに、魚の骨やにんじんの葉っぱ、ねぎの青い部分なども、最後の最後まで使い切ります。季節に沿った日常的な食材を、無駄なく、感謝していただく心がおばんざいの基本ですね。今日はこれから<かぶのそぼろあんかけ>を作っていきますが、薬膳の考えでいうと、かぶや大根、白菜、キャベツ、たまねぎといった白い食材は、消化機能にとてもよい働きがあるとされています。ストレスがたまってなんとなく胃が重いときは、白い野菜を食べるといいいんですよ。また、にんじんなどの赤い食材は血を補ってくれるので、女性には欠かせない食べ物です」

トークをしながら、手際よく「かぶのそぼろあんかけ」を作っていく青山氏。でも20代後半まで、まったく料理をしたことがなかったというから驚きです。

「もともと料理は出来なかったのですが、必要に迫られたときに、料理上手だった母の手作りの味を思い出して作るようになりました。ですから料理が苦手な人の感覚がよく分かるんです。たとえば、いちばんよくある失敗が、火を通しすぎること。食材に火が通っていないのを恐怖に感じてしまいがちですが、今煮ている冬場のかぶなんかはとても柔らかくて、生でも食べられるぐらいですよね。そこに火を通しすぎると、かぶ本来の香りが飛んでしまいます。最初は真っ白だったかぶの表面が、うっすら透明になったら火を止めて、しばらく置いておきましょう。そうすると余熱が入ってより柔らかくなり、食材同士がなじんで、旨味が何倍にも膨らみます。料理に慣れていない人は、火を止める前にあれこれ調味料を足してしまいがちですが、そうすると冷めたときに味が濃くなりすぎてしまいます。ですから最初に味を決めようとせず、しばらく置いてから味見することが大切。こんなに味が変わるんだ!って感動しますよ」

薬膳の考えをもとにしたおばんざい
冬は黒い食べ物で生きるエネルギーを補って

そして、いよいよ試食タイムへ。「かぶのそぼろあんかけ」は、鶏肉とだしの旨味が溶け合ったあんの中にトロトロのかぶが浮かび、生姜の香りがアクセントとなって、食べるだけで身体がほぐれるような一品でした。そのほか、「黒豆ごはんのおにぎり」もふるまわれ、会場はすっかりくつろいだ雰囲気に。

「薬膳には<五臓>という考え方があって、身体の機能を<肝、心、脾、肺、腎>という5つに分けて捉えます。なかでも冬は<腎>を養生する季節といわれるのですが、<腎>とは何かというと、生きるエネルギーそのもの、成長や生殖にとても重要な働きをするものなんですね。歳をとると髪が白くなったり、耳が遠くなったり、骨が弱くなったりするのは、この<腎>の働きが弱まるせいだとされています。ですから、<腎>を養生することは老化防止につながるわけです。それで、実際にどう養生するかというと、黒い食べ物をとるとよいといわれます。黒豆、黒ごま、ひじき、海草、牡蠣など、そういったものを冬に食べると、春に向けてエネルギーが身体に蓄えられていくんですね。この黒豆ごはんは作るのもとても簡単なので、ぜひ献立に取り入れてみてください」

キッチンは「命が生まれる場所」
家庭料理は作る人がラクに作れなくては

料理においては「作る人の気持ち」が味にも表われると語る青山氏。とくに家庭料理では、作る人がラクに作ることが大切なのだといいます。

「やっぱりイライラしながら作ると、食べた人がやわらかい気持ちになるような味には仕上がりません。京都では、ごはんを出して<いただきます>と言われたら、作った人が<よろしゅうおあがり>と返すのですが、そこには<食べてくれてありがとう>みたいな気持ちがあるんですね。作って、食べて、感謝する。そういうことが、結局は人をいちばん元気にするのではないでしょうか。ですから、私にとってキッチンは<命が生まれる場所>。自分だけのお気に入りのキッチンを作って、そこで料理する時間を楽しく過ごすことが、自分と家族の日々の生活の豊かさにつながると思っています」

青山有紀

青山有紀Yuki Aoyama

京都市出身。京都市内で料理屋を営む母と韓国籍を持つ父、韓国薬膳に精通した祖父母に囲まれて育つ。生まれ育った京都のおばんざいと幼い頃から食べて育った韓国家庭料理の素晴らしさを 伝えたいと、美容業界を経て2005年京おばんざい屋「青家」を東京中目黒にオープン。2010年京甘味処とお持たせの店「青家のとなり」をオープン。国立北京中医薬大学日本校卒業。
2010年国際中医薬膳師資格取得。出身地の京おばんざいとお菓子を中心に、ルーツである韓国家庭料理、薬膳料理、インド伝承医学アーウルヴェーダにも従事している。料理レシピ本の出版、企業の商品開発、レシピ提供、ケータリング、講演会など行っている。